夜もふけた頃、佐倉優は一人ベッドに横になり本を読んでいた。
ルームメイトの岩永秀が部屋の鍵を持たずに出かけてしまったため外出する事も寝る事も出来ないのだ。
本を読んでも苛立ちのせいで内容が頭に入って来ない。
「何やってんの、全く」
毒づいても苛立ちが増すばかりだ。
本に栞を挟みごろんと寝返りをうつ。
寝る気はあるが寝る訳にはいかない、いくら学校の敷地内にある寮とはいっても妙な輩がいないとは限らない。
優がそう考えていると扉のノブががちゃりと音を立てた。
はっとして慌てて身を起こし扉の方を見るとそこに立っていたのは秀だった。
「遅いよ君、今まで何やってたの」
あからさまに不機嫌な声で優は秀に向かって問い掛けるが、秀はへらへらと笑いながら
「あはは、ごめんごめん」
と言うだけだった。
秀のこのような態度はいつものことだから仕方ないか、と優はため息をつく。
「本当にごめんってば。これあげるから機嫌直してよ」
そう言って秀が差し出したのは、かわいらしくラッピングされた小さな袋だった。
「あ、これクッキーだね?僕が好きなやつ。仕方ないな、許してあげる」
さっきまでの不機嫌さが嘘のように優は満面の笑みで秀から袋をもらい、いそいそと開けている。
「相変わらず優はかわいいなあ、見ていて全然飽きないよ」
「…僕がかわいいって言われるの嫌だって知ってるよね?」
クッキーを口に放り込みながら優は秀をじろりと睨むが秀はへらへらしたままだった。
「全く秀はいつも…。そういえば、高等部に転入生が来るって知ってる?」
クッキーを飲み込み、口の周りを近くにあったティッシュで拭きながら問い掛けた。
「ああ、紺野先輩がそんなこと言ってたな。でもなんで?高等部のことなんてぼくらには関係ないでしょう?」
「でも、事件があった後に転入なんて怪しくないかと思ってね。僕らも何かに巻き込まれるんじゃないかと思って」
優が目を伏せて呟く。
彼は今までにも何故か厄介なことに巻き込まれているのだ。
一瞬、秀は表情を強張らせたがすぐに何時もの笑顔になって優の体を抱きしめた。
「大丈夫だよ、ぼくがいるもの。もし巻き込まれたら絶対に守ってあげる」
と言い聞かせるような声で囁いた。
「たっ…たまに君の考えがわからなくなるよ…」
優が目を白黒させながらそう言うと秀はにやりと笑って
「なら、ぼくの心を読んでみるかい?」
と返した。
「いや、やめとくよ、君はわからないから面白いんだし」
「あはは、そうかい?」
二人は顔を見合わせて楽しそうに笑った。
――今回だけは、君と一緒なら巻き込まれても良いかもしれない――
ルームメイトの岩永秀が部屋の鍵を持たずに出かけてしまったため外出する事も寝る事も出来ないのだ。
本を読んでも苛立ちのせいで内容が頭に入って来ない。
「何やってんの、全く」
毒づいても苛立ちが増すばかりだ。
本に栞を挟みごろんと寝返りをうつ。
寝る気はあるが寝る訳にはいかない、いくら学校の敷地内にある寮とはいっても妙な輩がいないとは限らない。
優がそう考えていると扉のノブががちゃりと音を立てた。
はっとして慌てて身を起こし扉の方を見るとそこに立っていたのは秀だった。
「遅いよ君、今まで何やってたの」
あからさまに不機嫌な声で優は秀に向かって問い掛けるが、秀はへらへらと笑いながら
「あはは、ごめんごめん」
と言うだけだった。
秀のこのような態度はいつものことだから仕方ないか、と優はため息をつく。
「本当にごめんってば。これあげるから機嫌直してよ」
そう言って秀が差し出したのは、かわいらしくラッピングされた小さな袋だった。
「あ、これクッキーだね?僕が好きなやつ。仕方ないな、許してあげる」
さっきまでの不機嫌さが嘘のように優は満面の笑みで秀から袋をもらい、いそいそと開けている。
「相変わらず優はかわいいなあ、見ていて全然飽きないよ」
「…僕がかわいいって言われるの嫌だって知ってるよね?」
クッキーを口に放り込みながら優は秀をじろりと睨むが秀はへらへらしたままだった。
「全く秀はいつも…。そういえば、高等部に転入生が来るって知ってる?」
クッキーを飲み込み、口の周りを近くにあったティッシュで拭きながら問い掛けた。
「ああ、紺野先輩がそんなこと言ってたな。でもなんで?高等部のことなんてぼくらには関係ないでしょう?」
「でも、事件があった後に転入なんて怪しくないかと思ってね。僕らも何かに巻き込まれるんじゃないかと思って」
優が目を伏せて呟く。
彼は今までにも何故か厄介なことに巻き込まれているのだ。
一瞬、秀は表情を強張らせたがすぐに何時もの笑顔になって優の体を抱きしめた。
「大丈夫だよ、ぼくがいるもの。もし巻き込まれたら絶対に守ってあげる」
と言い聞かせるような声で囁いた。
「たっ…たまに君の考えがわからなくなるよ…」
優が目を白黒させながらそう言うと秀はにやりと笑って
「なら、ぼくの心を読んでみるかい?」
と返した。
「いや、やめとくよ、君はわからないから面白いんだし」
「あはは、そうかい?」
二人は顔を見合わせて楽しそうに笑った。
――今回だけは、君と一緒なら巻き込まれても良いかもしれない――
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