「ねえ、優。やっぱりウワサの転校生気になるよね、見に行かない?」
何かをかちゃかちゃと組み立てながら秀が言う。
「駄目だよ、どんな相手かもわからないのに。第一、高等部に僕らが行ったら目立つし、ばれたら大目玉だよ」
読んでいる本から目も逸らさずに答える優に秀はくすくす笑いながら
「そう言うと思ったよ、だからこの子を作ってたんだ」
と言って秀が優に見せたのは一体の人形だった。
人形とはいっても少女が着せ替え等で遊ぶようなかわいらしいものではなく、デッサンで使うような簡素な見た目のものだ。
「人形?何でこの子の目はくり抜かれているのさ秀、あまり趣味の良い見た目じゃないよ」
眉を潜めて優が言う。いくらアンダーグラウンドな作品を好むとはいっても、やはり物による。
それに秀の能力は人形を操ることだ。目の無い人形が動き回るなんて、まるで売れないホラー映画ではないか。
「大丈夫、ちゃんとこの子には素敵な目を付けてもらう予定だから」
そう言いながら秀は立ち上がり、扉の方へ歩いていく。
優も秀の後を追い掛けて部屋を出る。

自室を出て二人が向かったのは紺野晶のいる部屋だった。
二、三回ノックをしてドアノブをひねるとがちゃりと音がして扉が開いた。
「ああ、来たな。頼まれてたやつ出来てるぞ」
そい言って晶が差し出したのは二つの小さな目玉だった。
「ありがとうございます、先輩」
秀はそう言って晶から二つの目玉を受け取ると、先程組み立てた人形の眼窩にはめ込んだ。
次に服を着せ、最後に人形用のウィッグをつけて秀は顔を上げた。
「さあ、今度こそ本当に完成だよ」
にっこりと笑い完成した人形を愛おしそうに抱きながら秀は二人を見る。
「あっ、もしかして」
優がはっとした表情で声を上げると秀と晶は顔を見合わせて笑った。
「そう、ぼくの能力を使ってこの子に転校生がどんな奴か見てもらうんだ」
「だから俺が目玉にカメラを付けてくれって頼まれてたんだよ」
目の下にくまができた顔で晶はあははと笑う。
「こんな小さいパーツにカメラを付けるなんて凄いですね」
優が人形の顔をまじまじと見つめながら言う。
「まあ俺ぐらいだろうな、こんなことが出来るのは。能力は下手だが、機械いじりだけは誰にも負けない自信があるぞ」
くしゃくしゃと優の頭を撫でながら上機嫌で晶は言う。
「とにかく、明日この子を高等部へ忍ばせるよ」
にやりと笑いながら秀が言う。
もちろんそれに異論を唱える者はここにはいない。

薄暗くなった部屋で二人の少年と一人の青年が好奇心をあらわにした笑顔で話し合っていた。