噴水がきらきらと飛沫を上げている。
涼やかな光景を人形の瞳を通して秀は見ていた。
「気付かれてたか」
ちっ、と舌打ちをして秀は呟いた。
否、それよりも三年前のこととは何なのだろうか。
先を急かすような視線を富月癒音へと向ける。
―実際に視線を向けたのは人形であるが―
癒音は戸惑いを表わにしている。心なしか青ざめているようにも見える。
「癒音!大丈夫か!辛いんならこんな奴らに話してやることねえぞ」
金の髪をした男が癒音を気遣うように、彼の体を支えようとした。
「この男は…富月兄の方か、確か茶羅とかいう」
茶羅の弟溺愛は中等部である秀にも伝わっている。
しかし先程の気遣いは溺愛とは違う気がする。まるで本人自体もその話題を避けたがっているような…。
「大丈夫だよ兄さん。それに一度話せばあの出来事を俺の中で風化出来るかもしれないし」
意を決したように癒音が顔を上げる。そんな弟の様子を見て茶羅も仕方ないとでも言いたげな顔をした。
「それじゃあ、話すよ。三年前の出来事を」
ここで一旦言葉を区切り、すうっと息を吸い込んだ。
そして人形の瞳をしっかりと見つめて口を開いた。
「三年前にも桜姫町で事件があったんだ、能力者関係でね。ただ違うのは今回はそれによって能力者に覚醒したこと。そして三年前の事件では、それによって能力が失われたということなんだ」
そう言うと癒音は再び口を閉ざし自分の足元を見つめた。
「能力が…失われた、だって?」
秀はその言葉が信じられなかった。ありえるはずがないのだ、能力を失うことなど。
確かに道具や拘束具による力で能力を一時的に封じることは出来る。しかし能力自体を失うことは前例にない。もしあれば知らない者がいるはずがない。
「きっと『君』は驚いてるよね?そんなことはありえない。もしあれば知らないはずがないって」
そう言ってて癒音は複雑な笑みを浮かべた。
「だけど事実なんだ、俺はその場にいてこの目で見たんだ。いや、それどころか下手をしたら俺の能力が無くなってたかもしれないんだよ」
自らの手を見て話す癒音に対し、秀は言葉を失った。
「ごめん、信じられないかもしれないけど…。俺は偶然その人の隣に居たんだ。そしたら何処から放たれたのかわからないけど暴走した、多分違法術がその人に当たって…それからその人は力を失ったみたいなんだ。」
そう言うと癒音はため息を付き、首を左右に振った。
能力を失ったのが自分だったらと考えてしまったのだろう。
その場に居合わせたことで心ない言葉を投げ付けられたのかもしれない。
「しかも三年前の事件は揉み消されたんだ。でも違法術の事件が同じ地域で起こるなんておかしいと思う。もしかしたら何か関係があるんじゃないかって思ってる。俺が今話せるのはこれだけだよ」
それを聞いた秀は成る程と思い、人形に一礼させるとその場を離れるように念を送った。

「思った以上に大事になりそうだな」
秀はぼそりと呟くと、このことをどう話そうか考え始めた。