『悪いけど、例の話はまた今度聞くよ。今日見舞いにいかなきゃいけないんだ』
紺野晶は携帯電話のメールにそう打ち込み送信すると電源を切り、病院内へ入って行った。
今日は見舞いの品を持っていないが、まあ大して問題ではないはずだ。
そんなことを考えながら歩いていると、目的の病室へたどり着いた。
二、三度ノックをし、扉を開いた。
「よう、起きてるか?」
晶が微笑みながら病室のベッドへ近付くと横になっていた青年が身を起こし、笑みを返した。
「ああ、起きてるよ」
青年、鈴木真也はベッド脇にある机の上から眼鏡を取るとかけながら答えた。
「前来た時より顔色良くなってきてるか、安心したよ」
晶はそう言って真也の頬に手を添える。
「お蔭さまでね、もうじき退院だ」
目を閉じ晶の体温を感じながら言う。
「そういえば、あんたに貰った鉢植えに花が咲いたんだ。ほら」
目を開け、開けた目を細めながら棚の上を指差す。
そこには小さな白い鉢植えに小さな薄桃色の花が咲いていた。
「本当だ、これ、持って来た時看護師さんに怒られたんだよな」
「ははっ、まあ普通病人に鉢植えは良くないからな。この鉢植えは俺が頼んだやつだけど」
二人は鉢植えに視線を向けながら言葉を交わす。
体調が悪くとも真也が一所懸命に世話をしたのだ。しかも能力を一切使わずに。
これは彼にしては珍しいことだ。晶に持って来てもらえたことが余程嬉しかったのだろう。
「そういえば、俺がいない間に転校生が来たんだよな。どんな奴だった?お前のことだから、もうちょっかいかけたんだろう」
くすくす笑いながら真也が晶の方を向く。
「秀と優にも似たようなこと言われたな…。まだ直接的にはちょかいかけてないな」
真也の言葉に苦笑しながら晶が言う。
「つ直接的にはってことは何かやったんだな。何したんだ」
晶の言葉に反応し、楽しそうに真也が言う。
やはり入院生活に退屈していたようで、このような内容の話には興味をそそられるようだ。
「ああ、あの二人と一緒にね。結果はまだ聞いてないけどな」
「中等部の二人ね、晶あの二人とよく一緒にいるよね。少し妬けるな」
冗談めかした言い方をしたが本心からの言葉だ。
「あはは、なんで妬くんだよ。それにもうすぐ退院だろ?同室なんだし一緒にいる時間は増えるじゃないか」
真也の心の内を知ってか知らずか晶は笑う。
真也は一分一秒でも早く退院できれば良いのにと願った。

鉢植えの花が小さく揺れた。