ふう、とため息を吐き、水道の蛇口を閉め、顔を上げた。
鏡には金の髪をした華奢な青年が映っていた。
鏡の中の自分の表情を見て、一瞬目を見開いた後、その表情を打ち消すように、にっこりと笑った。
律夜が洗面所から戻ると誠が不機嫌さを表わにした顔でこちらを見た。
「ごめんね、洗面所ありがと」
へにゃりとあどけない笑みを浮かべながら律夜が誠に言う。
しかしそんな態度に誠はさらに機嫌を悪くする。
「お前が人の返事も待たずに勝手に使ったんだろうが」
「だからぁ、謝ってるじゃん」
眉をよせた上目使いで言葉を発する律夜に対し、誠は苛立ちを隠せない。
もっとも、隠すつもりもないのだが。
「そんな恐い顔しないでよ、ボクもう出て行くからさ」
あくまで不機嫌さを隠さない誠に対し、律夜は肩をすくめ、扉の方へと歩き出した。
ドアノブに手をかけたところで「おい」と呼び止められた。
「なに?」
と小首をかしげながら振り返ると
「お前さっき千里の者だって言ってたな」
じろりと律夜を睨みつけながら誠は言葉を投げ掛けた。
そんな誠に対し律夜は自分の口に人差し指を当て、『静かに』のジェスチャーをとると
「それ以上は聞かないで欲しいな、お互い詮索はなしにしよ」
と言った。
その後「じゃあね」と言うと、もう誠の方へ振り返りもせず部屋を出た。
「何なんだ、あいつは」
一人自室に残された誠は苦虫を噛み潰したような顔で扉を睨みつけていた。
もうあいつとは関わりたくはないと考えながらベッドに腰を掛け、先程まで読んでいた文庫本を開いた。