「げ、」
夕火が教室に入ると、びしょ濡れになった生徒が眉を寄せた。柔らかそうな金髪から雫がぽとぽと、とこぼれ落ちている。
よく見ればそれがクラスメイトの友人であることに気づく。たしか、名前は律夜、だったか。
「総合の方が来ちゃったよ」
うさぴょん先輩のが丸め込みやすいのに、とため息をつく彼の正面に、赤い髪の生徒が呆然として立っている。放出される力の名残から、夕火は爆発の原因が彼であろうと判断した。
「あ、先輩、瑞穂くんは悪くないんです」
疑いの眼差しを感じたのか、律夜が凜とした声で言った。
「え、」
「ボクのせいなんです」
「でも」
「ボクが煽ったりするから」
瞳を潤ませて見上げてくる。作り物じみてはいるが、可愛らしさを醸し出すしぐさに夕火は一瞬言葉に詰まった。
「……そうだとしても、一応二人とも生徒会室に来てもらうから」
「はーい」
満面の笑みで返事をした律夜が、次の瞬間、ぴく、と顔をこわばらせた。
「先輩、もしかして鏡月くんと一緒でした?」
「いたけど」
「ボク、彼の気が苦手みたいで。気配の残りだけで鳥肌たちそう」
自分を抱え込むようにして後ずさった彼に、反射的に手を伸ばす。が、それが不調の原因であることに気づいて、夕火も数歩後ろに下がった。
科学部の奴等は誠に任せてあるが、この調子では、本人に会わせるのは難しいだろう。
爆発を引き起こしたであろう生徒も、制御できる範囲を越えた力を発散したためか、放心状態である。
「この先落ち合うつもりなんだけど、……じゃあ、生徒会に来るのは後でいい。名前だけ聞いておくよ」
他校なら大問題だろうが、帝南では爆発事故など珍しいものではない。校舎も相応の作りになっているから、損害も少ないはずだ。
調書を取って、ちょっとした罰を言い渡すだけなら、問題はないだろう。
「そうして貰えますか」
律夜は手早く自分ともう一人の生徒の名札を取り、夕火に手渡した。
「担保にもなるでしょ。……じゃあ、ボクたち一旦寮に帰ります。お騒がせしました」
「ああ、」
夕火の応えを聞く間もなく、律夜は赤髪の生徒の手を取ると、半ば引きずるようにして、教室を出ていく。
握った手のひらに、固い名札の感触がした。

そうして、歪みは、あらわれる