電気も点けず、暗い科学工作部の戸が開かれ、一人の青年が部屋へ入った。
「うわあ、何この暗い部屋。電気くらい点ければ良いのに。ねえ、紺野晶君」
戸のすぐ脇にある電気のスイッチを押しながら部屋の中にいる青年へと声をかける。
「総合生徒会の人ですね、昼休み行けなかったのはすみません。ちょっとごたごたしてたもんで」
入って来た聖二の方を向きもせずただ手に持っている鉢植えをじっと見つめたまま言葉を返す。
鉢植えには愛らしい桃色の花が咲いているはずだったが、花は赤黒く変色し、歪な枯れ方をしていた。
「お友達が倒れたんだっけ?それじゃあ仕方ないよね。なんだかタイミングが良すぎた気がするけど」
人の良さそうな笑顔を貼り付け聖二が明るい声で返事をする。後半の部分は笑顔を取り払い、声のトーンも低くなっていたが。
聖二の言葉を聞き晶は聖二をじろりと睨み、つかみ掛かる。
「その言い方は何ですか。仮病だとでも言いたいんですかっ!」
つかまれた肩の痛みに聖二は顔をしかめる。
「…そういう訳ではないよ。それより総合生徒会の人間に暴力なんて後々困ることに繋がるかもしれないよ?」
それでも口元には笑みを浮かべ晶を制止する。
未だ怒りが抑え切れないといった様子で聖二から離れる。
「それで、何の用件なんですか。総合生徒会様がわざわざ喧嘩を売りに来た訳じゃないでしょう」
不快感を表わにしたため息を吐き、晶は尋ねた。
聖二は部屋の棚を物色しながら
「お願いがあって来たんだよ。まあ拒否権は無いけどね」
と言ってにやにやと笑った。
そんな聖二を見て晶は舌打ちをし、自分の、否、自分達の不運を恨んだ。



彼の足元では花がより一層赤黒さを増していた。